「お寺を人の集う場所に」ー亡き夫とともに未来の参道を仲間とつくる 岐阜善光寺の松枝朋子さん |ブログ|岐阜市シビックプライドプレイス

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「お寺を人の集う場所に」ー亡き夫とともに未来の参道を仲間とつくる 岐阜善光寺の松枝朋子さん

松枝朋子さん

織田信長が愛した城下町の一角、岐阜県岐阜市の伊奈波神社参道周辺が今、にぎわいを見せています。月1回のマルシェ開催に加え、最近は参道周辺に地ビールを提供するバーや天むすの店が次々にオープン。ベトナムフォーの店も3月開店予定です。これらのまちづくりを手がけるのが、伊奈波神社隣に鎮座する岐阜善光寺に嫁いで18年の松枝朋子さんです。お寺の行事にマルシェの開催、参道周辺のまちづくりと、日々奔走する松枝さんに、活動への思いを聞きました。

寺の業務、マルシェ、まちづくりに奔走

取材に伺ったのは初詣の名残が残る1月初旬。寺の前には地域の人たちと手づくりした、「叶棒」を持った鬼が設置されていました。多くの参拝客が訪れるなか、松枝さんは笑顔で応じてくれました。

松枝さんの仕事は大きく分けて3つあります。まず、岐阜善光寺の日常の業務です。歴史ある伊奈波神社と岐阜善光寺は岐阜の名所の一つで、松枝さんは寺の情報発信、境内の掃除、お守りの販売などに大忙しです。

2つ目が、毎月縁日の15日に開かれるマルシェ「善光寺大門まるけ」です。門前の広場では、お弁当、パン、スイーツ、コーヒー、雑貨など県内の人気店が出店するほか、新鮮野菜の販売やお寺にちなんだワークショップもあります。松枝さんはその事務局長を務めています。

善光寺大門まるけの様子

昨年11月の「善光寺大門まるけ」。天気が良く多くの人が訪れました。

そして3つ目が、不動産会社「株式会社岐阜まち家守」の事務局長です。「岐阜まち家守」は参道周辺の古民家オーナーと移住者や出店希望者をマッチングする事業を展開しています。

この一帯は、空襲の被害に遭わなかったため、今も寺社や昔の面影を残す建物が多くあります。しかし、地域住民が高齢化し、空き家も増えるなかで、古い建物が解体されたり、新しい住宅に建て替えられたりしてきました。

「歴史的に価値のある古い建物や街並みを残したい」という思いから、松枝さんは2021年に地域の仲間と「岐阜まち家守」を設立しました。活動の第一弾が、翌年に参道の古民家を改築して開店したクラフトビール醸造所兼バーの「Tap Room YOROCA」でした。

Tap Room YOROCA

参道沿いにオープンしたクラフトビール醸造所兼バーの「Tap Room YOROCA」

Tap Room YOROCA

クラフトビール醸造所兼バーの「Tap Room YOROCA」では作りたてのビールが味わえるほか、瓶ビールも販売しています。ホップとモルトのバランスがとれた「金華山エール」、度数8.0%の「夕日のIPA」など、岐阜をイメージしたクラフトビールが楽しめます(月曜〜木曜定休、営業日・時間変動あり)

さらに今、参道の裏通りにある古民家4棟を商業施設として生まれ変わらせる「裏参道モール」構想が進行中です。中部地方のソウルフードである天むすの店「天ころりん」が今年1月にオープンし、3月にはベトナムフォーの店も開店予定です。

天ころりん

1月に開店した「天ころりん」。岐阜県産米を特注の土鍋で炊いているそうです。

天ころりん

白米の天むすは5個で750円(雑穀米は780円)。ぷりぷりのエビの甘みとほんのり塩がきいた白米の相性が抜群です。

夫・秀晃さんとの出会い

松枝さんは岐阜県下呂市出身で、実家は温泉旅館です。27歳で岐阜善光寺の副住職だった夫の秀晃(しゅうこう)さんと結婚し、岐阜市に来ました。

秀晃さんとの出会いは、青年会議所主催の研修旅行の船の上。その時は挨拶を交わす程度でしたが、のちに秀晃さんは松枝さんの連絡先を調べて電話をしてきたそうです。「あとで聞いたら、お嫁さんしにきていたって。私を見た時に、お寺のおくりさん(僧侶の配偶者のこと)をする想像ができたらしく、お付き合いを始めてすぐに結婚してくださいみたい感じで」

由緒あるお寺の後継者との結婚に、迷いはなかったそうです。「やっぱ恋って盲目というか、言ってて恥ずかしいんですけど。人柄がいいなと思って結婚しました」

秀晃さんの口癖は「お寺を人の集う場所に」でした。36歳で住職になると、寺の隣に地元の人が活用できるホールを備えた弘法堂を設立し、翌年からは「善光寺大門まるけ」をスタートさせるなど、その思いを次々と行動に移しました。しかし、2018年9月15日、心臓発作で亡くなります。41歳の若さでした。

それでも松枝さんは、秀晃さんが亡くなった2ヶ月後から「善光寺大門まるけ」を再開しました。1周忌には「シューコーまるけ」と題して開催し、秀晃さんを慕うたくさんの人が訪れました。

2019年9月15日に開催された「シューコーまるけ2019」

2019年9月15日に開催された「シューコーまるけ2019」(「善光寺大門まるけ」フェイスブックより)

秀晃さんが亡くなった後も「善光寺大門まるけ」を続けてきた松枝さんを、地域の仲間たちは「岐阜まち家守」の立ち上げに誘いました。「人の集う場所に」という秀晃さんの思いは、松枝さん、そしてまちづくりへとつながったのでした。

3つの仕事をかけもちしながら、2人の子どもの母親でもある松枝さん。多忙を極めますが、「それでも楽しい」と言います。夫といつも一緒に二人三脚でやっていたので、思っていることとか見てる方向はわりと同じだったと思います。 夫は参道をにぎやかにしたいねとずっと言ってて、私もそうなるといいなってずっと思ってましたし。今もそう思うので、まちづくり会社も楽しくできるんだろうなって」

そんな松枝さんはよく「旦那さんの遺志を継いでやってるんですね」と言われるそうです。もちろんそういう部分もすごくあるんですけど、夫は私に笑っててほしいって、よく言ってたので。自分で選んで、自分がやりたいことをやって、私が充実した日々を過ごしてる方が夫は喜ぶだろうなって。私がこうやったら夫は応援してくれるだろうな、とか、こっちの道を選んだ方が褒めてもらえるかなとか。夫の存在が、何かを選択をする時の指針になっています

松枝さん

秀晃さんの遺影を抱く松枝さん。亡くなられて4年以上たち、やっと遺影をしっかり見られるようになったといいます。

そう、松枝さんは夫の遺志を継いでいるというより、「人々のにぎわう場所をつくる」という同じ目標に向かって、今も秀晃さんと二人三脚で歩んでいるのです。

松枝さんたちが盛り上げている伊奈波神社参道周辺へは、JR岐阜駅からバスで10分ほど、バス停「伊奈波通り」からすぐです。皆さんも、これから新しくなっていく参道を訪れてみてはいかがでしょうか。

善光寺の本堂から見える、参道の風景

善光寺の本堂から見える、参道の風景。春には、参道両側をしだれ桜が彩ります。

 

*この記事は、「メディコス編集講座」第2期の講座の一環として受講生が制作しました。
インタビュー・執筆・校正:⁠山崎久美子、藤井智子、村上沙智代、小澤歩美、奥村理恵

 

メディコス編集講座第2期の概要は以下リンクからご覧ださい。
岐阜を編み、岐阜を集める「メディコス編集講座 第2期」