No.4
連綿と息づく岐阜を包む力
川に宿る“結”の心
平工 顕太郎さん
川漁師
結の舟 代表
長良川の現役川漁師。木造和船と伝統漁法を継承する職業人としては唯一の現役世代。6艘の漁船を所有し天然鮎の水揚げから出荷、さらに卸売市場では競人として川魚の買付けまでこなす。『長良川の鵜飼漁の技術』が国の重要無形民俗文化に指定されている長良川の鵜飼において、宮内庁式部職鵜匠の代表専属船頭を務めた経歴をもち、現在は和船を活用したツーリズム事業や和船の保全活動にも尽力。水族館や各種民間企業との連携事業ほか、行政および教育機関と連携した流域担い手育成事業、海洋教育講師なども兼任。「JAPAN OUTDOOR LEADERS AWARD 2020」において最高となる大賞を受賞。農獣医学部水産学科卒。
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現在のあなたの活動について教えてください
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長良川の中流域に位置する岐阜城の麓を漁場として木造和船を使って活動しています。自分の舟を持ったのは10年くらい前の20代後半ですが、18歳でこの業界に入り、内水面漁業に携わっています。
メインの仕事は水産物の水揚げです。天然鮎を筆頭に、ウナギ、ナマズ、スッポン、鯉などの一般的な水産物のほか、地元の言葉で言いますけど、筏バエ、ウルリ、スナクジ、ムギカラドジョウ、モクズガニ等々、岐阜で昔から親しまれてきた水産物を、季節に応じて、漁法を変えながら水揚げしています。ただ、漁業だけでは職業としてなかなか成り立たない部分があり、水揚げした水産物を自分自身で商品化し直販する六次産業や、百貨店の産直ギフト対応、航空会社のマイル交換商品など、様々な形で展開しています。
また、個人旅行者向けに和船を使ったツーリズム事業にも取り組んでいまして、こういう時代ということもあり密を避けるスタイルが喜ばれています。「長良川を五感で感じる」をテーマに、私が目の前で伝統漁法の漁業現場をお見せして、水揚げしたものをその場でお客さんに食べていただき味覚にも訴える。岐阜っていうのはこんなに面白いんだなという思い出を持ち帰ってもらうような組み立てで、いわゆるエコツアーとかサスティナブルツーリズムと呼ばれるジャンルでも活動しています。
他にも、料理人やお店を相手にした生産現場のご案内だとか、あとは、学校や水族館と連携した船上授業といった人材育成も舟の上で行っていますので、“飲食”、“観光”、“教育”という三つの分野を主軸とした活動を、この場所で展開しています。
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これからの野望(目標)について教えてください
これまでお伝えしたように、やはり、私の活動のすべての根幹は「川」です。川が日本人の暮らしを豊かにするのは大昔だけの話ではありません。それを令和の時代に岐阜で証明したいと考えています。
そのアクションとして昨年末に家族と友人たちの手で自宅に小さな川をつくりました。水源には井戸水を利用していまして、天候によって変わる水量や藻の状況などを考慮に入れながら、流れ終わった水を川上へポンプで汲み上げたり、田畑の水路へ排水したりと調整しています。この水脈づくりは地球が本来もつ生態系エネルギーの循環システムを意識し、土中の菌糸類たちの生息環境にも配慮した永続可能な環境デザインの手法です。その中には魚たちが泳いでいて、糞などの栄養分を利用して水際植物や果樹、野菜たちも川に寄り添うように育っています。今年、初めての春を迎えましたが、毎日の食卓が本当に鮮やかになりました。
小さな小さな川ですが、今後の暮らしの中でどれだけの恵みをもたらしてくれるかとても楽しみですし、ここを拠点に環境教育や自然学校など、青少年たちの居場所づくりへ繋げていきたいと考えています。
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あなたの考えるシビックプライドとは?
私のシビックプライドとは「川でつながる結の心」だと思っています。
屋号の“結の舟”は、漁師の家柄ではない私が初めて舟を手にしたときの出来事に由来します。当時すでに廃船となっていた漁船の修復に大勢の川漁師さんたちが連日のように手を貸してくださいました。川漁師の営みには人手が必要なことが多いのですが、そんな時いつも誰かが手を差し伸べてくれます。そんな相互扶助の精神が今でもここに宿っていることを何度も現場で目の当たりにしてきました。
それは漁師間だけに限ったものではなく、川で出会う大人や子どもたち、そして地域住民や観光客など、誰とでも共有することができるものです。みんな川に来れば、汗を流すけどいつもそこには笑顔がある。そんな素敵な空間を生み出す川の不思議なパワーが、この岐阜の街全体を包んでいる気がします。
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コメント
よく、川は危険だよと言われますが、川のどこに危険が潜んでいるかを知らないから危ないんです。それを知らないまま大人になっては、水難事故は無くなりません。危険を学ぶための大切な機会を子どもたちから奪わないでほしいと思います。
岐阜って、遊びの中に学びがある素敵な街です。
もし水辺に関わることで困ったらいつでもお手伝いいたします。
取材日 2021/4/26