開館から丸8年を迎えたぎふメディアコスモスでは、子どもの居場所をテーマとして3日間にわたる周年記念イベントを開催。メインのトークイベントでは、子ども達の居場所と出番づくりに取り組む認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さんをお招きし、「まちの未来、子どもの未来」について、柴橋正直市長、吉成信夫ぎふメディアコスモス総合プロデューサーと共に語り合いました。
今村久美さんは、大学進学で地元の高山市から関東に移り、その後カタリバの活動を進める中でNPO法人を立ち上げました。カタリバが大切にしているのは、親や先生などのタテの関係でも、同世代の友達とのヨコの関係でもない、ナナメの関係。近所のお兄さん・お姉さんの様な義務も責任もないけどたまに頼れる存在。そんな無邪気な人との緩い関係性を軸として、カタリバは子どもの本音や意欲を引き出す活動を続けています。
カタリバの活動は東日本大震災の被災地でも展開されてきました。
「体が動いてしまった」という今村さんは、メンバーと被災直後の宮城県女川町へ駆けつけ、学ぶ場も遊び場も無い環境にお寺を活用して子ども達の居場所を作りました。
支援を続ける中で、ある高校生から「助けられるのは本当に有難いけど、ずっと助けられるのもつらい。私も助ける側になりたい」という声があったそうです。そんな、担い手側になりたいという子ども達の想いをきっかけに、カタリバは被災地で高校生が自らプロジェクトを考え実行する活動を支援しました。
実は何かにチャレンジしたいという子どもは東北だけでなく全国に存在しており、これを契機に、カタリバの支援は「全国高校生マイプロジェクト」として全国へと広がっていきます。全国各地の高校生が学校の先生や地域の団体といった伴走者とともにプロジェクトを実行し、その活動をアワードとして大勢の前で発表したうえで、フィードバックをもらう。そんな机の上の学びにとどまらない、自らの興味や関心があるテーマへ主体的に取り組む経験を通して、多くの高校生が自らの人生を切り開く力を育んでいます。
トークイベントの後半は、柴橋正直岐阜市長による岐阜市の子どもファーストの取り組みの紹介を皮切りに、今村さんと吉成総合プロデューサーを交えての鼎談です。
オンラインやマスク越しでの交流という今を生きる子ども達の様子や、泣いたり騒いだりする子どもへの大人の寛容性について意見が交わされつつ、話題は「遊びの貧困」へ。
衣食住を不安定にする経済的な子どもの貧困だけでなく、遊ぶ場所が限定されたり、遊びの質の低下や多様性が失われる「遊びの貧困」と呼ばれる状況が、現代では危惧されています。
「何か事が起こったら大人のクレームが入る現代のソーシャルアクションが要因の一つでは」という今村さんの投げかけに、「ルールは守りつつも、自由な使い方へと大人の方から規制をほどいていく行動も大事」という吉成総合プロデューサー。柴橋市長は「金公園のリニューアルや道路空間を活用した自由に過ごせる場の提供を進めている」と、公共空間の柔軟な使い方について言及するなど、子ども達のくつろぐ場所をいかに作り、守っていくかについて議論が交わされました。
自由に活動できる場の大切さを語る一方で、とても印象的だったのは「自由に振る舞うことの難しさ」を示した今村さんのお話です。
カタリバのプロジェクト「みんなのルールメイキング」は、中高生とともに校則を対話的に見直す活動として、全国100校以上で取り組まれています。このプロジェクトに関わる先生たちの悩みは、子どもたちの意見の吸い上げ方。校則を「自由に発想してみよう」と投げかけても、自由な行動や考えを表すことに慣れていない子ども達からは「変えたい」という意見が出てこないというのです。
自由な場の提供のみならず、子ども達自身がその場を自由に使う練習が欠かせないという今村さん。吉成総合プロデューサーからも「生きる力に結び付けるためにも、その練習にはユーモアが重要」という発言が出るなど、自由を使いこなすための伴走の必要性を強く感じました。
他にもメディコス館内の別会場では、悩みを抱える保護者が共に考える「不登校フェス」が同時開催されるなど、子どもの居場所を見つめ直す多様なキッカケを提供できたのではないでしょうか。