みんなとはひとりひとりの集合体。
「みんなのひとりと」は、ぎふメディアコスモスとつながるみんなの中から、様々な分野で活躍するゲストをお迎えし、そのユニークな取り組みや考えを深堀りする全4回のテーマトークイベントです。
今年度最初のゲストは、学童保育や放課後等デイサービスにおいて“独創的な遊びの手法で学びを提供する”一般社団法人ヒトノネ 代表理事の篠田花子さん。吉成信夫ぎふメディアコスモス総合プロデューサーが聞き手となり、学校ではない学びの場についてトークが繰り広げられました。
岐阜市で生まれ育った篠田さんは、広告制作会社に就職しライターとして東京で活躍するも、「もっと何か社会に還元できることがあるのでは」と感じていました。その後、第一子の子育てで地元に戻ったことをきっかけに、岐阜での活動をスタートさせます。
2018年に一般社団法人ヒトノネを創業して以来、子どもたちの放課後の充実、女性の働きやすい環境づくりに奔走し続け、現在は「探究型学童保育ヒトノネ」と「放課後等デイサービスみちな」「個別支援教室Imaru(アイマル)」、10代の創作の居場所を提供する「アトリエ・クリエイターズクラブ」といった多岐にわたる事業を展開しています。
ヒトノネは多様な遊びを中心とした学びの場を用意しています。
学童保育では、地元の魚屋さんを講師にセリを疑似体験してみたり、鷹匠を招いて本物の鷹と子どもたちが触れ合ったり、和菓子職人と一緒にお菓子を作ったりと、子どもたちに日常にない刺激を与え、手を動かし、自らの工夫をうながす仕掛けが組み込まれています。
魚屋さんと一緒に市場のセリを疑似体験し、手でサインを送り合う子どもたち。
和菓子職人さんとは新しい商品開発まで子どもたちと考えたそうです。
遊びの場づくりの中で、ヒトノネのスタッフが大切にしていることは「大人が誰より真剣に楽しむ」こと。子どもの目線に立つことで大人にも多くの気づきや学びがあります。子どものためにやってあげているのではなく、互いに影響を受け合い、学び合う関係性を大事にしているのです。
また、そういった大人との関係は、社会と関わることにもつながります。そして、多様な人物、豊かな感性を持った人との出会いは、子どもたちの選択肢を広げていく。自分はこのままでいいんだ、自分はこういう人間なんだと自己認知することが、ここに居て良いんだという安心感へつながっていくと篠田さんは考えています。
また、ヒトノネには大人のクリエイターと交わりながら、子どもたちが自由な創作活動に取り組める「アトリエ・クリエイターズクラブ」もあります。ここには楽器や3Dプリンターなどが備わっていて、アート、音楽、ものづくりなど、それぞれの興味や関心、好奇心を育んでいます。
STEAM教育(※)の重要なポイントであるアート。
「アートやデザインって相手への思いやりだと思っているんです」と話す篠田さん。モノや場を作る上で「こんな形だったら気持ちよく使ってもらえるかも」、「こういう配置ならもっと楽しく過ごせるかも」という思いやりの視点があるかないかで、結果が大きく変わる重要な要素だと考えているとのこと。
※STEAM教育:科学・技術・工学・芸術の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。<出典:STEAM JAPAN WEBサイト>
近年、教育現場でよく聞かれる「探究的学習」という言葉があります。ヒトノネも取り組むこの学習に対する篠田さんの考え方について、吉成プロデューサーから質問が投げかけられました。
探究的学習とは調べ学習とは違って、トライ&エラーを繰り返して学んでいくもの。「失敗しても大丈夫だよ」と言われ慣れてない子どもたちは失敗することを極端に恐れる傾向にありますが、恐れず失敗してみるというプロセスの中から学びを得られる手法だと篠田さんはとらえています。だからこそ、遊びの中でも子どもたち自身にルールを決めさせたり、助け合ったり、悔しさを感じる過程も大切にしているそうです。
子どもたちのために大人ができることについての話題が続きましたが、篠田さんの口からは、「子どもたちからは学ぶことばかり」という言葉もこぼれました。
毎日子どもたちが大人の想像を超えることをしてくれるので、それを見ているのが本当に楽しいと。
吉成プロデューサーからは、「むしろ子どもに試されているくらい」と、約20年にわたって児童館などの居場所の運営に携わった経験を踏まえた言葉もありました。
話し手の言葉一つ一つに大きく頷く参加者の姿も多く、トーク全体を通して会場には共感の雰囲気が満ちていたように感じました。
参加者の皆さんにとっては、子どもの成長への「遊びの大切さ」を改めて実感するとともに、ユニークな遊びを本気で実践する篠田さんの活動から新たな気づきを得た夜になったのではないでしょうか。