一度街から消えたスパイスの香り、令和の風にのって。「高等ライス」復活の立役者、服部恵美さん |ブログ|岐阜市シビックプライドプレイス

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一度街から消えたスパイスの香り、令和の風にのって。「高等ライス」復活の立役者、服部恵美さん

三河亭へのインタビュー

長良橋通りから旧岐阜市役所南庁舎の角を西へ入ると、スパイスの良い香りが漂ってきます。
店先には大きなピンク色のタペストリー、看板メニュー「高等ライス」の写真が目を引きます。
創業から130年、岐阜市八ツ寺で老舗洋食屋として地元のみなさんに長年愛されてきた三河亭です。

店を切り盛りしてきた現店主のお母さまが他界され、2013年にお店を一旦閉めることになりました。その後も常連さんたちから「もうやらんのか?」「さみしいわ」といった声が届くことが多かったそうです。

先代の娘さんであり、アパレルメーカーのデザイナーをしていた服部恵美(はっとりえみ)さん。30歳を超えたころ、そろそろ何か岐阜に、この地域に貢献できることはないか、自分にしかできないことは何かを考えていました。

飲食業の経験は何もないけれど、長年愛されてきた三河亭を復活させたら誰かが喜んでくれるんじゃないか。そんな思いから、約8年の休業を経て店を再開し、5代目の店主になることを決めました。
三河亭へのインタビューしかし、不安もありました。そのころはコロナ禍の真っ只中。
「以前のようにお客さまは入るのだろうか?」という不安の中、リニューアルオープンのために様々なことを取り入れていきました。

以前はなかったカウンター席を新たに作ったのも、お一人で来られるお客様が増えるだろうと見越してのことだそう。

なんといっても一番の大きな問題は、閉店から8年経って同じ味が再現できるのかどうか。そこはレシピと先代のお父さまの味覚や経験値、そして服部さん自身の味の記憶を辿り、二人三脚で作り上げていきました。

小さい頃から店で働く両親を見て育った服部さん。飲食店とは何かということが染みついていたのも、大きな助けになったそうです。そして今、自身が店に立ち歴史を繋いでいるのです。

三河亭の様子

女性でも気軽に来てもらえるよう、カフェ風の内装に。灯りもやわらかい色味で、可愛いランプシェードを取り入れました。

「自分も三河亭のカレーがもう一度食べたかったんです」

三河亭の看板メニューは、カレーライスの上に目玉焼きがのり、自慢のソースをかけて食べる「高等ライス」です!

三河亭の高等ライス

一番人気「高等ライス」

みなさんはカレーライスにソースをかけて食べたことはありますか?

注文した「高等ライス」を待つ間、私は小さい頃に祖母が作ってくれたカレーライスを思い出していました。

ちょっとうすくて、「ソースをかけて食べなさい」とウスターソースが出てきたのです。
実は、これは私にとって苦い思い出です。あまり得意ではなかった味でした(笑)

「高等ライス」が運ばれてくるとカレーのいい香り!
先ずはカレールーを一口。野菜の甘味が溶け込んだ優しいお味。喉を通り過ぎるころ、辛さを感じます。小さなお子さんにも喜ばれそうです。

目玉焼きは半熟、黄身がとろりと流れ出します。そこに濃度がある自家製ソースをかけると、甘じょっぱいソースと黄身がからんでおいしい! とてもフルーティなソースです。

三河亭のカレーライス

目玉焼きにスプーンを刺し、流れ出た黄身の上に自家製ソースを垂らします。

カレーライスにソースは合うことが分かって、思い出も上書きされました。

服部さん自身の「もう一度食べたい!」という思いが店の再開の原動力にもなった「高等ライス」。
メニューの名前の由来はどこからなのでしょうか。

「昔、カレーはハイカラな食べ物だったんですよ。まだ洋食の文化が来たばかりの頃は、みなさん食べたことがなくて。昔のカレーって、野菜や肉を煮込んだものに片栗粉でとろみをつけてカレー粉を入れたようなものでした。そこからだんだん小麦粉でルーを作るカレーに変わっていったんです」
三河亭へのインタビュー「カレー粉も卵も高価で、目玉焼きが一個のってるなんて高級メニューだったんです。『高級じゃおかしいから高等にしたら?』って、お客様に名前をつけていただいたんです」

この地域が盛り上がらないと柳ヶ瀬もダメになっちゃう

三河亭へのインタビュー

コロナで飲食業は厳しいうえに、追い打ちをかけるように材料の値上げもあります。後継者不足でサラリーマンに愛されてきた老舗の店が閉店になるところも。

「だから三河亭はこうじゃなきゃということではなく、三河亭の味は守りつつ、カフェタイムやディナータイムもやって幅広くお客さんに来てもらえるようにして、岐阜の飲食業に少しでも貢献したいと思っています」

三河亭の様子

店内には他の飲食店のフライヤーも置いてありました。

服部さんの熱い思いは岐阜愛へと繋がります。

「岐阜の飲食店みんなが盛り上がればいいので。どこかの店だけがいいわけではなくて、地域全体が盛り上がらないと柳ヶ瀬もダメになってしまう。イベント出店など、もしお話があればやろうかなと思います」
三河亭へのインタビュー明治27年の創業以来ずっとこの土地で洋食屋を営み、多くの常連さんに支えられてきました。
当時のお店の様子がわかる写真が店内に飾られていて、お店のショップカードにもなっています。

三河亭の様子

ショップカードの写真は、服部さんのお母さまが小学校入学のときお店の前で撮影されたもの。

「『復活してくれてありがとう』って今日も言ってくださったお客様がいて、やってよかったなって思います」

服部さんの思いを聞いたあとに食べた「高等ライス」は絶品でした。あたたかい思い出を味わいに、三河亭に足を運んでみませんか。
三河亭の様子
三河亭Instagram
https://www.instagram.com/mikawatei1894/

 

*この記事は、「メディコス編集講座」第2期の講座の一環として受講生が制作しました。
インタビュー・校正:有馬じゅり、大東加奈、小笠原ゆき、可知春香、前平栄司、執筆:小笠原ゆき

 

メディコス編集講座第2期の概要は以下リンクからご覧ください。
岐阜を編み、岐阜を集める「メディコス編集講座 第2期」