柳ヶ瀬の文化の灯りを守りたい。昭和から令和へ、劇場とともに歩んだ43年。磯谷貴彦さんがフィルム映画で伝えたいものとは |ブログ|岐阜市シビックプライドプレイス

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柳ヶ瀬の文化の灯りを守りたい。昭和から令和へ、劇場とともに歩んだ43年。磯谷貴彦さんがフィルム映画で伝えたいものとは

ロイヤルビル前

岐阜駅から徒歩10分、新旧が交わる柳ケ瀬商店街」。その中でひときわ昭和っぽさが漂う「ロイヤルビル」の4階にある「ロイヤル劇場」では、現在は貴重になったフィルム映写機を使って昭和の映画を入れ替えなしで、1週間ずつ上映し続けています。

ロイヤル劇場の看板

往年の映画スターが勢揃いするロイヤルビル1Fの入り口

今回、取材班がインタビューをしたのは「ロイヤル劇場」の元支配人で、岐阜土地興業株式会社の磯谷貴彦(いそがいたかひこ)さん。劇場運営に長らく携わってきた磯谷さんに、フィルム映画の上映を続けている理由と、磯谷さんの仕事人生を聞いてみました。

フィルム映写機と磯谷さん

現在は非常に貴重な35mmフィルム映写機。1本の映画を前後ふたつに分けて映写します。

偶然だけど、映画館と共に歩んできた

「実は私、映画が大好きというわけではないんです」

冒頭から飛び出した意外な発言に一同ビックリしました。

「これは私の持論ですが、仕事と奥さんは運命的な成り行きというか、偶然性が大きい(笑)。 私は長男なので墓と仏壇を守らなきゃいけない。ならば『実家から通えて楽しそうなところ』と考え、この会社に入社しました」と、明快に語ってくださいます。

「以来43年、ずっと楽しかった。転職を考えたことは一度もありません」。映画館の事務所勤務から始まり、劇場の支配人、柳ヶ瀬のもう一つの映画館で複数のスクリーンを有する「CINEX(シネックス)」の新ビル建設、TVやラジオの番組出演。多種多様な業務に携わり、仕事も人脈も広げてこられたそうです。

フィルム映画の選択が起死回生に。個性を生み出すレトロ映画館へ

とはいえ、これまでに映画館ビジネスの激震を2回経験されました。

最初はシネコン(シネマコンプレックス)の登場。2回目はデジタル化への切り替えを迫られた時です。

平成7年に中部地方初の外資系シネコンが三重県桑名市に誕生した時は、全く他人事だと思っていたという磯谷さん。しかし、岐阜市も市民のライフスタイルの変化に抗えず、お客さんが市中から郊外へと流れていきました。

そして、フィルムからデジタルへの移行。「ロイヤル劇場」の存続を考えた時、当時のデジタル映写機は高額で、複数の映画館を持つ同社が投資をするのは難しい…。やむなく従来のフィルム映写機を継続する決断に至ります。

映画館は最新の映画を提供する場所。

そのような当時の認識に対し、過去の作品を上映することは「屈辱の選択だった」と振り返りますが、まず3ヶ月間試してみようと、新たなスタイルの劇場運営が始まりました。

「すると、”柳ヶ瀬にある古びた映画館”で、”昭和の古い映画を上映する”ことがマッチしたのです。まさに”レトロ”ですね」

幸い、同社は他に複数の映画館を持っているので、映画会社に無理が言えたとのこと。現存する35mmフィルムを安く借り入れ、1週間交替で安価な入場料600円で上映するスタイルが確立され、現在に至ります。

映写室からの眺め

2階の映写室から客席を見下ろす

現在、磯谷さんは役員となり、現場は次世代へバトンタッチしていますが、フィルム映画を上映するうえでこだわってきた「昭和」の演出はそのまま。とことんレトロな雰囲気がつくり出されています。

そのこだわりポイントを3つ紹介しましょう。

こだわり1 上映ラインナップは「幕の内弁当」

上映映画の番組表は、大きく4ブロックで構成されていて、「喜劇、人情、アクション、プラスα。単品(例えばハンバーグ)ではなく、複数のメニュー(=幕の内)で、男性も女性も楽しめる、健全ムードの作品(ポルノはNG)をラインナップする」のが磯谷さんの信条。

貸し出し可能なフィルムが限られるため有名作品は少ないものの、「レアな作品が観れるユニークな映画館」という口コミで、コロナ禍前は名古屋や大阪、静岡から毎週通ってくるコアなファンがいたほど!

主要な観客は65歳以上のシニア層のため、「番組表を送付していた長らくのファンのご家族から先日、訃報が届いて…」としんみりされる場面もありました。

ロイヤル劇場の番組表

磯谷さんが「幕の内弁当」と例える上映映画の番組表

こだわり2 懐かしい駄菓子と昭和の懐メロで「昭和らしさ」を演出

売店には懐かしい駄菓子が揃っています。映画館は薄利多売のビジネスなので、ポップコーンやドリンクなどで利益を確保するのが一般的らしいのですが、ロイヤル劇場は例外です。

売店の様子

懐かしいお菓子が揃い、かつての売店の雰囲気を感じることができます

駄菓子の仕入れは現在も磯谷さん自らが担当され、お手軽価格で提供しています。それは、独自の「秘密の仕入れルート(!)」の賜物。また、上映前後のBGMは昭和の懐メロを流して、映画を観に来たお客さんの気分を盛り上げます。

売店のお菓子

昭和の映画館らしい、懐かしいおやつがたくさん。良心的な価格で提供しています

こだわり3 「郷土色」も大切に、昭和時代の岐阜をスクリーンで観る

取材時は「岐阜ロケ作品」特集として、繁栄した問屋街や笠松競馬、金華山ロープウェーを舞台とする『喜劇 競馬必勝法 大穴勝負』がアンコール上映中でした。

本作は谷啓扮する詐欺師が、岐阜駅前にはお金持ちが多いからと岐阜を訪れるコメディ。長良橋の下に住む伴淳三郎、その娘役に十朱幸代という配役の映画で、懐かしい岐阜の風景が映り込んでいます。

岐阜が舞台になった映画は、「俺、エキストラで出たんだよ」とお客さんに教えてもらうことが多いそうです。

そして、劇場ロビーの壁には、貴重な手書き看板の写真がズラリ。当時の柳ヶ瀬の賑わいを映した写真や劇場パンフレットも興味深く見ることができます。かつての人気百貨店や大ヒット映画の広告も!

懐かしき岐阜の映画作品看板集

昭和30年代の「ロイヤル劇場」の手描きの映画看板や柳ケ瀬商店街の写真が飾られています

「ロイヤル劇場」を貴重な文化として残していきたい

「今、単館劇場や商店街の映画館は全国的にも採算が非常に厳しい状況です。その中でロイヤル劇場は偶然が重なり、かろうじて存続していますが、みなさんの支援が必要な文化遺産だと思っています」と磯谷さん。

劇場の歴史を熱く語る磯谷さん

劇場の歴史を熱く語る磯谷さん

「この灯を消したくない。一度止めたら、もう二度と戻すことはできません。柳ヶ瀬の文化をなんとか継続させたいという一心で頑張っています」

映写機と磯谷さん

劇場とともに生きる磯谷さん

「ロイヤル劇場」は私たちが知らない時代の息づかい、街の景色に出会える貴重な場所です。ぜひ、あなたも一度足を運んで、この空間を体感してみませんか。

 

INFORMATION

「ロイヤル劇場」
岐阜県岐阜市日ノ出町1-20 ヤナガセ・ロイヤルビル4F
Tel.058-264-7151(シネックス)
アクセス JR「岐阜」駅または「名鉄岐阜」駅から岐阜バス乗車、「柳ヶ瀬」バス停から徒歩1分。
http://www.tochiko.co.jp/royal.html

 

*この記事は、「メディコス編集講座」第2期の講座の一貫として受講生が制作しました。
インタビュー・校正・執筆:
伊藤曉揮子、河合ほのか、川瀬浩光、幡野亜津子、松浦朋子

 

メディコス編集講座第2期の概要は以下リンクからご覧ださい。
岐阜を編み、岐阜を集める「メディコス編集講座 第2期」