そして新たな芽が萌える頃

3月。
誰が見ているわけでもなく点いていたテレビから流れてきたCM曲がふと耳に留まった。気になりついでにスマホに手を伸ばし、音楽アプリで探し出してからは時々聴くようになった。悩める若者のはかなく脆い、それでいて揺るぎない確かな日々が歌詞に乗って耳に残る。
今、高橋尚子ロードを歩いている。高橋尚子ロードとは、岐阜市にある長良川公園を起点とする長良橋から忠節橋までの河川敷、往復5キロのランニングコースである。この距離を1時間ほどかけて歩く。すっかり車に頼りきりの運動不足の体にはこのくらいの運動がちょうどよい。歩き出すと左手には岐阜城を頂上に乗せた金華山がそびえ、その足元には長良川が春の日差しをきらきらとはね返している。耳に付けたイヤホンからはあの曲の続きが流れる。太陽の光を不規則に反射しやわらかい風にゆらゆらと小さく波立っていく川の流れが、若者の揺れ動く気持ちと重なって美しくまぶしい。
メディコス編集講座を約半年間受講してきた。シビックプライドという言葉をここで初めて知った。メディアコスモスではシビックプライドをこのようにとらえる。「これまで永年にわたって積み重ねてきた歴史的な風土性や文化、先人たちの過去の記憶に敬意を払いながら、市民ひとりひとりがこれからも岐阜の地で楽しく豊かに暮らし続けていくための原動力となる、人々の誇り・思い・心意気のこと」(シビックプライドプレイスHPより)当初、シビックプライドの意味も曖昧なまま、きっと面白いはず!という勘だけを頼りに、全講座をその度に出されるトレーニングの課題に苦しみながらなんとか乗り切った。本来の目的の編集する腕が上がったかどうかは不確かだが、次々とたたみかけるように出される課題をこなすうち、確実に岐阜への愛着がわいた。郷土愛という既存の言葉とは少し違う、岐阜に住む当事者の自覚を持った新たな受けとめ方ができるようになった。
このランニングコースの起点となる広場には、スケートボードをする若者が集まる。ひらりとボードをつま先でひっくり返し、パタンと音を響かせながら軽やかにすべっていく男の子。この多感な十代の若者たちにとって岐阜はどんな場所なんだろう。これからも変わり続ける、または変わらない部分も残す、岐阜で生きていく。生まれ育った土地を離れる選択肢もある。どのような道があろうと、岐阜という場所がひとりひとり、違った形で心に残る。できれば愛していてほしい。岐阜という土地に対してポジティブな想いを持っていてほしい。その道筋を作る役割を果たせないだろうか。メディコス編集講座を通して、ひとつの気持ちが強くなった。シビックプライドをティーンエイジャーたちと分かち合いたい。面白おかしく、かつ楽しく肩肘張らない愛に巻き込みたい。できることはなんだ?
メディアコスモスの名前の由来にはこのような想いが込められている。「“知と文化、絆“を育む拠点として、様々な情報が国内は言うに及ばず宇宙にまで広がっていくことを期待しています」(メディアコスモスHPより)このメディコスから宇宙にまで広がった多くの情報やたくさんの人の想いが再び地上に降り立ち、種となり、根を張り、枝葉を広げる時がきた。これからの岐阜を生きる新芽が芽吹くように豊かな土壌をつくろう。まずは岐阜をアウトプットすることからか?模索する日々がしばらく続く。
<書き手>メディコス編集講座 第1期生 ごとうかおり
メディコス編集講座とは、岐阜市の魅力的な情報を集め・発信する担い手育成を目的として岐阜市が開催している講座であり、第1期となる令和3年度には23名が修了し、市民ライターとして活動しています。