一粒の種に蓄積された記憶が今日から明日へ。
人と人、人と地域、地域と地域を繋ぐ「明後日朝顔(あさってあさがお)」とは?

今年(令和6年)の夏は小学1年生の朝顔の観察日記以来、実に何十年ぶりかで朝顔を育てている。
9月になってようやく花を咲かせてくれた朝顔の花であるが「今日はいくつ咲くのかな?」と毎朝楽しみだ。
残暑の厳しい中で咲いた涼しげな朝顔の花には、心癒されるものがある。
岐阜県美術館では「明後日朝顔」という聞きなれない名前の朝顔が栽培されている。
建物の壁に沿って植えられた明後日朝顔の苗を見て、最初は単なる普通の朝顔の苗だと思っていた。「何で美術館で朝顔を育ててるのかな?」と。
美術館内にあるアートコミュニケーターズルームで「ご自由にお持ち帰りください」の文字と共に置かれた朝顔の種。「そうか!あの朝顔の苗はこれだったんだ。私も育ててみたい」と思い種を持ち帰ったのが6月のこと。
「朝顔の種って確か、一晩水に浸けてから蒔くんだよな?あれ?もしかして一週間だったかな?いやいやそれでは浸けすぎだよな」「肥料は何をあげたらいいのかな?」「あ!ツルは何に絡ませればいいのかな?」と遥か昔の記憶を手繰り寄せながら種を蒔いたものの、なかなか発芽せず、3回目の種蒔きでようやく発芽した苗の成長は、遅い上にヒョロヒョロで「本当に咲くのか?」と不安に。さらに8月の台風では「飛ばされてしまうのでは?」と心配したものの、何とか9月に入り綺麗な花を咲かせてくれた。
明後日朝顔プロジェクトは、アーティストであり同美術館の館長でもある日比野克彦氏の呼びかけにより、2003年に新潟県十日町市莇平(あざみひら)の集落の住民たちと共に朝顔を育てることから始まったプロジェクトである。
その後、収穫された種は全国へ運ばれ、プロジェクトは2024年で22年目に突入した。現在、全国28の地域+1団体で実施されている。
種を蒔き、花が咲き、種ができる。
そして収穫した種は全国へと運ばれ人と人、人と地域、地域と地域が繋がるネットワークとなる。
明後日朝顔のリーフレットには
「種の中には今までの記憶が蓄積されている」
「一粒の種の中には次に伝える思い出が詰まっている」
とある。
私が育てている明後日朝顔は莇平から水戸へ渡り、岐阜に来た種だ。
種の中には莇平と水戸の記憶が詰まっていることだろう。
今年収穫した種には今年の記憶が追加され、また来年へと繋がっていく。
芽が出るまでのワクワクすると同時に心配だった私の気持ち、今年の猛暑、岐阜の土の匂い、様々な記憶が種に宿されて繋がっていくのだろう。
地球温暖化により日本の四季があいまいになって来たのでは?と思うことが多くなった。
4月に訪れた桜の名所では
「あの木は去年枯れてしまったんです。温暖化の影響で桜の木が枯れてしまうんですよ」
とガイドの人から説明を聞いた。
朝顔に温暖化の影響があるのかどうかは分からないが、今年のあまりの猛暑に「途中で枯れてしまうのでは?」「本当に咲くのか?」と心配していた。
そんな中でも綺麗に咲いてくれた明後日朝顔に感謝するとともに、今現在、日本の何処かで私と同じように明後日朝顔を育てている人に思いを馳せながら、日本の四季に感謝し、地球環境について考える機会になったこの夏であった。
※文中の写真は岐阜県美術館画像提供以外のものは筆者が撮影
【アクセス】
岐阜県美術館
岐阜市宇佐4-1-22
岐阜バス(鏡島市橋線)JR岐阜駅または名鉄岐阜駅前 「県美術館」 下車
JR 西岐阜駅 南口から南東へ徒歩15分
【開館時間】
午前10時から午後6時(入館は午後5時30分まで)
月曜休館(祝日の場合は開館し翌平日休館)
<書き手>メディコス編集講座 第4期生 林 千穂
メディコス編集講座とは、岐阜市の魅力的な情報を集め・発信する担い手育成を目的として岐阜市が開催している講座であり、令和6年度の第4期までに83名が終了し、市民ライターとして活動しています。