心なしか優しくなれる「護国之寺」
何気ない散歩やドライブ、サイクリングを楽しみながら、ちょっとついでに歴史の香りを味わってみるのもいいものである。
大仰にいえば、心のなかの「どこかと何か」が、フワッとほぐれてゆくかもしれない。
ある休日の朝、岐阜市長良エリアにある「雄総山 護国之寺」へと向かった。まだ街は眠たげで、生活の音はあまり聞こえない。ふと行ってみようという気持ちと行動が、さらっとその地へと向かわせた。


そのお寺の誕生は、奈良の大仏が建立された時代とときを同じくする。聖武天皇が民の平和を願い行った大事業の時代である。学生のころ、授業で聞くなどして、記憶にとどめている人も多く、比較的に有名な時代ではなかろうか。
この奈良時代に、「雄総山 護国之寺」は建てられたという。「ゆうそうざん ごこくしじ」と読む。巷間ではたまに、「おぶさかんのん ごこくのじ」と呼ばれたりすることもあるが、それは俗称のようである。西暦746年頃から続く古刹である。
奈良時代とくくられるこの時代、疫病(天然痘)の流行や地震などの災害に人々が苦しめられていた期間があり、そんな不穏な世の中が、うまく鎮まっていくよう大きな願いがこめられ大仏が造られることになった。そして、この地からもその事業に携わるものが奈良に赴いた。
奈良東大寺の大仏建立において、この地ゆかりの人物(日野金丸 ひのきんまる)も大いにはたらいたという。その功績により褒美として与えられた仏鉢が、この寺には収蔵されている。
常時これを見ることはできないが、岐阜市で唯一の国宝として大切に所蔵されている。例年、1月18日、8月18日に公開されている。いつかお目にかかれる幸運に恵まれれば、その人は幸いである。
名岐バイパス(国道22号)より続く岐阜東バイパス(国道156号)を北進し、岩戸トンネルをくぐり、鵜飼い大橋へと進んでいく。橋をわたる途中、その正面に山のドーム型屋根の慈光霊廟(奥の院エリアの建造物)を望むことができる。ここが護国之寺である。

長良橋からのアクセスは、清流長良川の右岸(下流に向かって右側)を上流へ向かって進んでゆく。岐阜グランドホテルを左に見つつ、さらに上流方面へ。すると鵜飼い大橋の姿を見ることができ、先述の霊廟を目印にだんだんと近づいてゆく。
おおむねその位置まで来たら、脇道を山側にそれて細い路地をくぐり抜け、山腹の建造物をたよりに進んでゆくと、立派な2階建ての門(楼門)につきあたる。
公共機関で訪れるなら、JR岐阜駅から「おぶさ」行きに乗れば、その終点が目指すお寺の楼門前である。

朱がすすけた外観が、多くの時代を生き抜いてきたことを雄弁に物語る、そんな門がある。
門の両脇にはここを守る仁王像(金剛力士像)が、右と左に配されている。右には阿像、左には吽像。いわゆる「あ・うん」と呼ばれるものである。見開いた像の目に自分の目がフォーカスされると、自然に背筋がピンと伸び、ひきしまった気持ちへと変わる。
門をくぐり、そのまま急峻な階段を一段一段かみしめながら登ってゆく。視界いっぱいに荘厳な本堂が飛び込んでくる。内部にはきらびやかな十一面千手観音が設置されており、訪れた人を静かに迎えてくれる。その佇まいに、あがった息もこのときばかりは落ち着きを取りもどす。

ここは美濃西国三十三観音霊場の17番札所ともなっており、巡礼スポットの一つでもある。
これらの札所は観音菩薩をまつるものです。本西国三十三所は2府5県(京都、大阪、和歌山、奈良、兵庫、滋賀、岐阜)にまたがっている。岐阜県内には他に、谷汲山華厳寺(揖斐川町)がある。ここは、最終札所・満願札所とされている。


このお寺だけを堪能してもいいし、三十三ヵ所の長い散策シリーズの一ヵ所として訪れるのもいい。
岐阜の古式ゆかしき歴史をたどるならば、一度はこの地を訪れて、山紫水明の地の別の魅力を味わってみてほしい。
さらに山頂方面へ、奥の院前の展望広場へと足を運ぶ。眼下に鵜飼い大橋や長良川、眼前に金華山や岐阜城をしたがえ、千数百年前に思いを馳せてみる。

奈良時代から現代へと千数百年のあいだ脈々とつづく美濃の地のうつりかわりや人々の営みを、映画のフィルムのように思い浮かべ、しばしこの閑かさにひたってみる。
長良川の豊かな水流のように珠玉の時が流れる。
すると、何となく日常のあれやこれやから解き放たれ、心なしか命が洗濯されてゆく。これは歴史がなせる技かそれともこの眺めか、あるいはこの静寂か…。
帰路は心なしかやさしい気持ちになって、急な階段を降りていく。「また来ますね」と誰に告げることもなく、ひとりごとをつぶやきながら。
かかとの音だけ響く。コツコツ、コツコツと。
護国之寺
住所 岐阜市長良雄総194-1
電話 058-231-3539
Instagram:https://www.instagram.com/gokokushiji/
<書き手>メディコス編集講座 第5期生 江崎英樹
メディコス編集講座とは、岐阜市の魅力的な情報を集め・発信する担い手育成を目的として岐阜市が開催している講座であり、令和7年度の第5期までに103名が終了し、市民ライターとして活動しています。

