No.28
伝統を身近に、やりたいを形に
アトリエで叶える夢

長野 いく美さん
アトリエのら 代表
麦とろとカフェらいちょう オーナー
1990年 岐阜県生まれ
曾祖父から四代続く大工の家系に生まれる。高校で日本画を専攻し画家を目指す中で、漆塗りに出会ったのをきっかけに、京都の専門学校で漆芸の基礎を学ぶ。卒業後は実家へ戻って大工の仕事を学び、修行中に父親の知人から譲り受けた伊奈波神社参道にある古民家を自らの手で改修し、2023年10月に「アトリエのら」をオープン。アトリエで漆を使ったアート活動をしながら、漆芸や金継ぎ、日本の伝統工芸品、アートを身近に感じてもらうための活動に注力している。
現在のあなたの活動について教えてください
― 漆に興味を持つようになったきっかけを教えてください。
画家を目指していて絵で挫折したときに、息抜きで北海道1周に出かけたんです。友人のお父さんが北海道で農業をやりながら冬は木工作家をやっていて、そこで漆に初めて出会いました。それまでは漆について全く知らなかったんですけど、木と漆がコラボレーションできることに感動したんです。実家が木をいっぱい扱っている大工の家系だったということもあり、漆芸を勉強してみようという気持ちになりました。
― 自分の場所で漆を使った活動をするために、アトリエを譲り受けて自ら改修したとお伺いしたのですが、アトリエについて教えてください。
大工の修行中に父の知り合いのおばあさんから家の解体の依頼がありました。でも、隣の家とくっついていて解体ができないとなったときに、自分のアトリエを持ちたいという気持ちがあったので、譲り受けて自ら改修することになりました。改修前はボロボロの家でしたが、古いものを壊したくない、家を守りたいという想いが強くあって、なるべく化学素材を使わずに改装しました。昔の建物は良い素材を使っていたり、良いデザインだったりするので、もともとあった枠組みを生かしながら自然の素材を使って作りました。
自分でアトリエを作ってみて、1つずつ作り終えていくのが楽しく、特に大工仕事は目に見えて成果がわかるので、少しずつ自分の技術をこの家で試せたという達成感がありました。
改修後のアトリエでは、漆芸の製作、金継ぎ教室、カフェのオーナーをしています。月2、3回のヨガ教室などのイベントやアート展示、ワークスペース、レンタルスペースなどとしても使っていただいています。今は準備段階ですが、今後漆塗りと金継ぎの教室を開く予定です。
― 「アトリエのら」、「麦とろとカフェらいちょう」の名前の由来について教えて下さい。
「アトリエのら」は、自分がのらりくらりと生きてきたことや、ノラジョーンズが好きだったこと、野良猫やのら仕事と、自分の好きな言葉にのらが入っていたことなど、いろいろ掛け合わさって決めました。
「麦とろとカフェらいちょう」は、20代の紆余曲折している頃に山登りにはまっていて、そのときにらいちょうに出会ったのがきっかけです。らいちょうは1000m以上にしか生息していないので、そこに行かないと会えないみたいなのがあって、カフェもそこにしかないものにできるといいかなと思い「らいちょう」に決めました。また、「麦とろ」は、自然薯がもともと好きだったのと、縄文時代から使われている素材という、漆と共通する点もあって選びました。
― 仕事を通して大切にしていることやこだわりについて教えてください。
1番は、伝統工芸品や古い建物を感じてもらうことです。こんなものがあったんだという場所になってほしいです。カフェでは明治時代の食器を使っているので、普段のランチから伝統工芸品を身近に感じてもらえたらなと思います。漆塗りの器っていうと、正月だけのイメージがあると思いますが、普段使いにも向いているものなので、ガシガシ使ってもらいたいです。伝統工芸品が非日常的存在となってしまうのは寂しいことなので、器が壊れても金継ぎの技術を使って直していくことで、日常的に使ってほしいなと思っています。
― 様々な挑戦をしていく中で共通する想いなどはありますか。
自分の気持ちに素直になって、やりたいと思った瞬間に行動することを意識しています。人生は短いし、後悔しないように、あれこれ考えずまずはやってみる!だめなら次!っていう軽いフットワークでできるように。
ただ、私はいろいろやりたくなっちゃうタイプなので、自分の芯を常にもつことが難しいです。自分がやりたいことはここだなと、左右にぶれないよう、軸を持てるように気を付けています。自分だけの力ではなく、たくさんのご縁があっての今なので、本当に感謝しかないです。
これからの野望(目標)について教えてください
―これからの目標・野望について教えてください。
活動を通して、○○やってみたい!挑戦したい!という人を応援していきたいです。私もまだ発展途中ですが、地元である岐阜に元気な人が集まり、発展していくことの役に立てたらなと思っています。
そして古き良き日本の文化や伝統工芸、アート、古民家の魅力もたくさんの人に再認識してもらえるように活動していきたいです。
― 今後新しくチャレンジしてみたいことがあれば教えてください。
実はたくさんあるんです!ガッツリ金継ぎをしてみたい人とか、大工について勉強したいという人に向けて宿泊しながら教えられる施設があったらおもしろいかなって思います。あとは、農業にすごく関心があって、カフェで使っている自然薯は自分で育てているんですけど、自分で野菜をつくってみたいというのがあります。ほかにも、陶芸をやってみたいなという野望もあります。
0から100まで自分で作るのがとても好きなので、いろいろ挑戦していきたいです!
あなたが考えるシビックプライドとは
若いころはパッとしない町だなぁと思っていましたが、ここで店を構えるなかで、ご近所さんの温かみ、歴史、文化、都会過ぎない安心感、おいしいお店の多さ、金華山といった岐阜の良さに気づいてきました。ちょうどいい「塩梅」が私にとってのシビックプライドかなと思います。その他にも、岐阜の魅力を感じるのは、いい意味でコミュニティの狭さです。知り合った人の知人が自分の知人だったってことがよくあります。その輪がどんどん大きくなっていくのがとても嬉しいです。
伊奈波通りでお店をしていると、歴史の1コマの中で生活しているんだなと思うことがよくあって、そんな歴史ある町並みや観光地としての岐阜も大切にしつつ、今住んでいる岐阜の人に良さを再認識してもらいたいです。その魅力に気づく1つのきっかけとなる場所として、このお店の存在があるといいなと思います。
コメント
皆さんも何かやってみたいことがあれば、挑戦してほしいです。岐阜の人、町にはそれを受け止めてくれる大きな懐があります。一緒に楽しみましょう!!
漆で遊んでみたい方はぜひ遊びにいらしてください!
取材日 2024/6/10