人とまちに寄り添う 若き“食”人 |珍ちんな人|シビックプライドプレイス

interview

No.20

人とまちに寄り添う 若き“食”人

片山 治さん

Natural Base 店主
合同会社to U 代表社員(ぎふコーラ プロジェクトリーダー)

1991年 岐阜市生まれ

岐阜の大学を卒業後、もともとやりたかった飲食を勉強するために東京へ。数年を経て岐阜に戻り、2018年、名鉄岐阜駅近くのビルの中で飲食店を始める。2021年にはお店を移転し、戦後から続いてきた漬物屋さんの建物をリノベーションしたレストラン「Natural Base」を美殿町にオープン。「無添加」「無農薬」を基本にしながら、生産者さんや食の素晴らしさを伝え、コミュニケーションの生まれる「循環型飲食店」を目指す。岐阜産の材料を使ったクラフトコーラ「ぎふコーラ」の開発・商品化のプロジェクトリーダーでもある。

    1. 現在のあなたの活動について教えてください

― Natural Baseで片山さんが大切にしているコンセプトを教えてください。

「無添加」「無農薬」の食を提供することが基本にあります。それに加えて、この場所のコンセプトとしているのは「循環型飲食店」。お客さんが親子で食事をしながら映画を見る会を開いたり、味噌づくり体験会をしたり、また山県市に自分たちの畑があるので、実際に行って普段食べている食材がどうやって作られるのか学んでもらったり。ただご飯を食べるだけの場所ではなく、昔の商店がそうであったように、コミュニケーションが生まれる場所、生活や自然に寄り添ったお店にしたいという想いがあります。また、地元の農家さんへのリスペクトから岐阜の野菜を多く仕入れること、お店で使った野菜のくずを畑に戻すことも大切にしています。それらも「循環」をテーマとするものですね。

― Natural Baseは古い漬物屋さんの看板が今も残る変わった外観です。そのこだわりのポイントも教えてください。

お店の移転先を探す中で、柳ケ瀬近辺の場所で色々な物件を見させてもらい、美殿町にこんな物件があるよと紹介してもらったのがこのお店です。一目見て他では作り出せない建物の味わいを感じました。この建物を壊すという話もあったそうですが、こんな歴史ある、想いの詰まった場所をなくしてしまうのは、まちとしてめちゃくちゃもったいないと思いました。それで自分としてはこれも何かの出会いだからここでやってみようと思い立ったんです。そうした考えのもとで漬物屋さんの看板を今も下ろさずに使い続けています。

― ぎふコーラの開発・商品化も牽引されています。そのいきさつは何ですか。

東京にいた時に「岐阜ってどこ?」「岐阜って何があるの?」とよく周りの人に聞かれました。その時に鮎や飛騨牛としか答えられなくて、岐阜に20年くらい住んでいたのに全然知らない自分がもどかしかった。それで「岐阜にはこれがあるよ」と言えるようになりたい、そのために岐阜のものを使った何かを作りたいという想いを持って岐阜に帰ってきました。そうした中、2018年から始めたお店で東京から仕入れたクラフトコーラを扱っていたんです。それはすごく美味しいし、面白い飲み物で、スパイスや柑橘などを色々な材料が含まれているので、岐阜のものと組み合わせてもいいんじゃないかと思うようになりました。そうしたら、たまたま岐阜の西濃地域の伊吹山で採れる薬草と出会って、その後一緒にプロジェクトを進めるメンバーと出会って…全部たまたまなんですけど、岐阜の薬草を使ったクラフトコーラを開発することにしました。コーラというと、どうしてもコカコーラが有名ですが、もともとはアメリカの薬剤師が体のために生み出した薬膳ドリンクで、色んなバリエーションがあるんです。本来は滋養強壮のためのものだったので原点回帰ということでもありますね。

― 「食から健康」ということを大切にされているように思いますが、そのきっかけは何ですか。

自分が小学校高学年の時に病気になって半年くらい入院していた時期がありました。それまでは普通に歩いてご飯を食べて友達と遊んで好きなことをしていたのに、実はそれが全然当たり前じゃないとその時に気付いたんです。それをきっかけに食のことを調べるようになると、今の食って本物が少ないなと感じました。醤油や味噌などの調味料ひとつをとっても、色々な添加物が入っていて、元来先人の方が大切にしてきた作り方がなくなってきていて…本物の食を伝えたいなと思うようになりました。それが今の店のコンセプトにつながっています。それがなかったら、原価も高いし、こんな大変なことはやっていないですね。病気になった時、同じ病院で自分よりも小さい子たちがすごく苦しんでいるのを見ました。もともと食べることが好きだったこともあって、そうした子どもたちを減らすために、本当に小さいことかもしれないけど、食を通じて何かできたらいいなと思ってやっています。

  1. これからの野望(目標)について教えてください

目標は2つあります。1つ目は岐阜市に観光客を呼びたいということ。岐阜県に訪れる多くの方は高山や郡上に行ってしまいますが、岐阜市の川原町、柳瀬・美殿町などには、面白い人やお店、場所が存在してて、すごく豊かだと思うし、外から来ても楽しめるコンテンツはたくさんあります。だから、まずは岐阜市に泊まって岐阜市をハブに高山などに行ってもらえるようにしたい。そのためには宿泊施設が大事だと思うんです。全国の色んなエリアに行くと、宿泊できる良い雰囲気の古民家などがありますが、岐阜市だと駅前は大手のビジネスホテルが多く、長良川の近くまでいくと旅館もあるけれど、まちなかにそうした施設が少ないように感じます。1棟、1日1組とかでもいいので、柳瀬近辺に泊まれる場所を作りたいなと思います。そこが食事もできる場所であり、市外から来た人が柳ケ瀬エリアの古いところ、新しいところを含めて楽しんでもらえる拠点にも出来たらいいですね。

もう1つはぎふコーラです。今は薬草がベースのクラフトコーラですが、あくまでも目的は岐阜の魅力を広く発信したいということ。西濃エリアの薬草だけではなく、岐阜・中濃・東濃・飛騨も含めた5エリアで、それぞれの特産品を使ったコーラを作り、ぎふコーラで岐阜を旅するような仕掛けができたら面白いと思います。岐阜地域なら伊自良大実柿。世界で唯一そこでしか栽培されていない柿です。本来は渋柿ですが、たまに木の上で完熟する柿があって、それが今まであんまり使われてこなかったんです。その柿の甘味を使ってクラフトコーラを作ろうと思っています。これからNatural Baseのお店の中に、ぎふコーラの製造設備も導入する予定です。どれだけの量ができるかはやってみないとわからないですが、たとえ少量であってもここでしかできないオリジナルなクラフトコーラを作ってみたいですね。

  1. あなたの考えるシビックプライドとは?

昔、自分が東京に行くときに先輩が送ってくれた哲学者ニーチェの言葉があります。「求めるものはここにある」。多くの人は足元に気付かず、外ばかりを見て過ごしてしまいますが、本当に良いもの、宝とは、実は身近なところにあるんだよということ。岐阜に来てお店をやっていると本当にそうだなと思います。岐阜の人こそ岐阜のことを知らないなと。だから岐阜の人自身が楽しいと思えるようなまちにしていくことが大切だと感じます。自分たちが楽しいと思わないと外から見たって楽しいまちとは思わない。だからまちづくりとか難しいことでなくても、色んなものに出会い、見つけ、楽しいと思う人が増えれば、自ずと岐阜はいいまちになっていくと思うんです。

  1. コメント

岐阜には良くも悪くもどちらかというと保守的な文化があると云われています。一方で、岐阜はみんなが思っているよりも色んな意味ですごく豊かだと思います。だから、まちの中の知らない場所やお店、人など、自分が知らないものにこそどんどん飛び込んでいってほしいです。まずは自分たちが、このまちを知って話して関わって考えることが大切です。誰かひとりとか、行政、事業者・消費者といった形ではなくて全員参加でこのまちを一緒に楽しんでいきましょう!

取材日 2022/9/29

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