人と学ぶ場~みんなの「やりたい」を「できる」に~ |珍ちんな人|シビックプライドプレイス

interview

No.18

人と学ぶ場
~みんなの「やりたい」を「できる」に~

加藤 隆史さん

人と学ぶ場ふらっと 代表
NPO法人えん 理事長

1981年 岐阜市生まれ

12年間公立中学校で教師を務めた後、学校だけでは救いきれない多くの子どもや親の声を聴き、2016年、不登校など悩みを抱える子どもたちを対象とする通信制高校のサポート校兼フリースクール兼個別指導教室「人と学ぶ場ふらっと」を岐阜市内に創設。学校に行きたくても行けない子どもたちが安心できる居場所づくりを目指して活動を続けている。2021年には、そうした活動の幅をさらに広げ、行政との連携も強化するためにNPO法人「えん」も設立。自分と他者を見つめながら誰もが一緒に成長できる空間の中で、今日も目の前の子どもたち一人ひとりと正面から向き合っている。

    1. 現在のあなたの活動について教えてください

― 「人と学ぶ場ふらっと」を創設したきっかけやこれまでの活動について教えてください。
家庭の事情から12年間務めた教師を辞めて次の仕事を探していたところ、知り合いの紹介で通信制高校の先生として働くことになりましたが、その高校がすぐに潰れてしまったんです。その時に、それまで通っていた子どもたちの場所が必要だと考えて、2016年にサポート校として「ふらっと」を岐阜市に創設することにしました。
そうすると中学生の子どもや親からも「学校に行きたいけど外にも出られない」といった相談が寄せられるようになり、それならいっそフリースクールという名前にして高校生以外の子も来れる場所にしようとなったんです。すると今度は夜間に授業を受けたいという子も来るようになって、ふらっとは通信制高校のサポート校にフリースクール、個別指導教室も兼ねた場所になりました。
だから何か最初から明確なビジョンを持って始めたわけではないんです。困っている人がいる、だったらそれを解決するために何ができる?って考えてちょっとずつできることが増えていったというイメージ。
2021年にNPO法人「えん」を設立したのも、そうした活動をしているうちに、ふらっとに来る子の保護者の方が協力してくれるようになったので、それならNPO法人にしてできることをさらに広げようとなったんです。だからNPOの理事の多くはお母さんたちに担ってもらっています。

― 本巣市で進めている「お山のおうちプロジェクト」についても教えてください。
ふらっとに来る子どもたちがどんどん元気になってきて、外で遊びたいと言い出したんですが、ふらっとは街中にあって付近は車も通るし外で遊ぶのは危ない。それで、どこかいい場所がないかと探していたら、本巣市のさくらキンダーガーデンという幼稚園の先生が、ここを使っていいよと周りに木の生い茂る、今は使っていない平屋の家「お山のおうち」を紹介してくれたんです。2020年、それをみんなで改装しようとなって、100万円の募金を集め、自分たちが安心できる居場所をもう1つ作ることにしました。音源を流してカラオケをしたり、火や井戸水を使ったり、プールに入ったり、子どもたちが何でもできる場所です。ただ唯一、Wi-Fiだけはないのですが、ふらっとでは散々Wi-Fiを使う子どもたちが「そこがこの場所の良いところ」と言うんです。
1つの教室の中だけではなくて、自然やここにいる様々な人などに囲まれて色んな価値観を感じたり、学んだりするように、自分で何かを得ることが大切で、それは教えてもらうのではなく、子どもたちが自分で選びとるということ。いくらこちらが何かを提供したところで、子ども自身がやると言わなければ変わらないし、その中で何を感じたかはその子のものでしかないんですね。何でもよいので感情が揺れ動く瞬間がすごく大事だと思っていて、それを一番感じてほしい。だからこそ、そのための選択肢のある空間をつくることを大切にしています。

― 活動におけるコンセプトとその成果について教えてください。
まずは「ごちゃまぜ」が良いということです。それは年齢もだし、仕事も大人も子どもも関係ないということもあります。あとはここに来たら色んなことができる、小さな社会みたいなところにしたいと思っています。例えばプログラミングがやりたい子がいたら、自分はできないけど誰か得意な人を呼べばできるとか、図書館のことを知りたかったからメディアコスモスの吉成プロデューサーにお願いしてみようとか。そうした方々を呼べれば、子どもたちの学びは満たされていきます。「ごちゃまぜ」と「やりたいを叶えられる場所」、この2つは外したくない。だからこそ大人もふらっと来れる場所であることが大切だし、少しずつそうなってきていると思います。
また、子どもたちを見て感じる活動の成果としては、「取り戻してきている」という表現が自分は一番いいと思っています。成長したとか変わったというよりも、誰かと関わる喜びや何か1つのことをやり遂げる嬉しさを感じた時に、もともとその子自身が本来持っている力を発揮できて、取り戻していっているというイメージ。だから自分たちが何かしてあげているというよりも、ここに来る子たち自身が学びとっているのだと思います。

  1. これからの野望(目標)について教えてください

ここの理念である「ごちゃまぜ」というのが素敵だねと思ってもらえる人を増やしていくことが一番良いと思っています。そして、そうした人とつながって、よりここに来てもらったり、関わってもらって、その人たち自身も幸せになるような活動ができたら嬉しいです。
今度、夏休みスクールというものをやる予定で、ボランティアさんを募集して、それぞれの特技で協力してほしいと呼びかけたら、「私は“おからこんにゃく”の資格を持っているからそれで餃子を作るわ」という方や、「私はアートをやってあげる」という方、「麻雀を教えますよ」という方など、色んな「できる」が集まってきました。全然知らなかった人たちが集まったら、またそこでつながりができて輪が広がっていく、そうした場をしっかりと作っていけたら持続可能なものになっていくと思います。
子どものやりたいを叶える力が自分にはもっと必要だと感じるし、それはすごく漠然としているけれど「誰かの役に立ちたい」、ただそれだけなのかもしれません。

  1. あなたの考えるシビックプライドとは?

自分にとってのシビックプライドはやっぱり「人」だと思います。みんなが知らないだけで岐阜にはめちゃくちゃ面白い人がたくさんいるし、人そのものが岐阜のまちをつくっています。
自分の活動に照らして考えると、今はどこでも色んな手段で学べる時代だけど、大切にしたいのはどんな人と関わりながら学ぶかということ。だからこそ、ふらっとは「人と学ぶ場」という名前を付けています。
地域に人は支えられて生きているけれど、その地域を作っているのもまた人です。人を大切にすることで自分もまちも豊かになっていくのだと思います。

  1. コメント

自分が最近大切にしているのは「それもあるよね」という考え方です。これってどんな場合でも言えるんです。例えば「勉強やらなきゃだめだ」と言われたら、「そうだね、それもあるよね」、「勉強なんてしなくてもいい」と言われても「そうだね、それもあるよね」と。そう言ったほうが相手の考えを聞き入れるし、自分事として考えるようになれると思います。
人によって考え方が違うのは当たり前で、まず「それもあるよね」で自分が「そうだよね」ってわかるところから、「じゃあどうする」と自分事として捉え、対話が進めていける。そんなふうに一人ひとりが「それもあるよね」から「あなたはどうしたい」と話を聞いて、相手の夢も自分の夢も叶えられるまちにしていければ、岐阜のまちは、めちゃくちゃいいまちになると思います。

取材日 2022/7/4

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